善玉? 悪玉? 低い方が良い? コレステロールの本当の話
敬遠されてきた「コレステロール」
前回のなるほどコラム【低い方が良いって本当?『カロリーと脂肪』】の中でもお伝えしたように、「肥満」や「シニア」、「内臓への負担」などの対策のために、食事からの摂取カロリーを低く抑える目的で、敬遠されてきてしまった、大切な栄養素である「脂質」ですが、その中でも、摂取の上限値が定められ、低い方が健康に良い、と推奨されてきた「コレステロール」とは、一体どのようなものなのでしょうか。
厚生労働省の運営する健康情報サイト「e-ヘルスネット」の中で、「コレステロール」について、次のように解説しています。
【コレステロール(これすてろーる)/ cholesterol 】
人間の体に存在する脂質のひとつです。有害物質のように見られていますが、コレステロール自体は細胞膜・各種のホルモン・胆汁酸を作る材料となり、体に必要な物質です。2割~3割が体外から取り入れられ、7~8割は糖や脂肪を使って肝臓などで合成され、その量は体内でうまく調整されています。
つまり、「コレステロール」は、動物にとって重要な栄養で、その全体量のうち7~8割ほどは体内合成で作られ、食事から得る量は2~3割ほどしかなく、もし、食事からの摂取量が多くても、全体量はうまく調節されている、となっています。
この説明であれば「食事からのコレステロール量は、気にしなくても大丈夫。」ということになりますが、低めに抑えることが望ましい、とされてきた背景には、『コレステロールの過剰摂取が、心筋梗塞などを引き起こす、動脈硬化や血栓の原因である。』として考えられてきた過去がありました。
勘違いから始まった「悪玉説」
「コレステロール」という存在自体は、18世紀には、既に発見されていましたが、世間に“体に良くないもの”として認知されてしまったのは、1913年、ロシアで行われた『ウサギにタマゴを与え続けたら、動脈硬化が起こった。』という実験からでした。
ウサギの動脈硬化が起こった場所を調べたら、「コレステロール」が見つかったので、『動脈硬化は「コレステロール」が原因である。』とされてしまったのです。
そもそも、完全な草食動物のウサギに、動物性のタマゴを与えている点など、実験のやり方の是非や、検証が無いまま結果だけが広まり、20世紀半ばに、欧米を中心に様々な栄養学の基礎がつくられていく中で、この実験結果が取り入れられ、「コレステロールの摂取は控えるべき」という意見が主流になってしまいました。
さらに研究が進む中で、「コレステロール」が血液の中を流れていく際に、タンパク質で包まれた形(リポタンパク)になっていることが分かると、その比重の違いから“肝臓から各組織に運ばれる「低比重リポタンパク(LDL)」”と、“細胞や組織から回収されて肝臓に戻される「高比重リポタンパク(HDL)」”とに区別されるようになりました。
そして『血流に、各組織に運ばれる「低比重リポタンパク(LDL)」が増えると、動脈硬化や血栓の危険が高くなるのではないか?』という懸念から「LDL=悪玉コレステロール」という代名詞が付けられ、『動物性の脂質を摂取すれば、体内コレステロールが増え、「悪玉コレステロール」も増えてしまうから摂取は控えるべきだ。』とされてしまったのです。
その後、20世紀の終わりごろ、「コレステロール」の本当の役目の1つである“細胞の修復”という働きが発見され『動脈硬化や血栓が起きている場所に「コレステロール」があるのは、傷ついた血管を修復しているから』という事実が判明し、“コレステロールは悪者”という説は終息したかに見えましたが、その頃はまだ、食事に含まれる動物性の脂肪が、体内の「コレステロール」の総量を増やす、という考えが定説となっていたため、『余分な「コレステロール」は増やすべきではない。』として、低コレステロールが推奨され続けました。
修正された「コレステロール」の概念
しかし、21世紀に入り、体内のコレステロール量は、「恒常性(ホメオスタシス)」という、生き物に備わった「体内環境調節機能」により、食事からの摂取量が多ければ、体内での合成量を減らすなどして、総量が一定になるように調節されているため、食事では変化しないことが、いくつもの実証結果から、明らかになりました。
その事実を踏まえ、2013年にはアメリカの心臓病学会でコレステロール摂取量の、上限の設定を撤廃。日本でも、2015年に厚生労働省が発表した「日本人の食事摂取基準(2015年版)」の中で「コレステロールの摂取量は低めに抑えることが好ましいものと考えられるものの、目標量を算定するのに十分な科学的根拠が得られなかったため、目標量の算定は控えた。」
として、以前まで設定していた摂取上限を撤廃しています。
さらに「ただし、コレステロールは動物性たんぱく質が多く含まれる食品に含まれるため、コレステロール摂取量を制限するとたんぱく質不足を生じ、特に高齢者において低栄養を生じる可能性があるので注意が必要である。」
として、無理なコレステロール制限の危険性についても触れているのです。
事実、最近では、アルツハイマーや、認知症など、脳の障害がある状態や、「癌」が発症している状態では、体内の「中性脂肪」や「コレステロール」の値が下がってしまっている、などの調査報告も出ており、食事からの「脂質」の摂取に対しての考えが、少しずつ変わり始めています。
これからの「コレステロール」の考え方
長い間、悪役のレッテルを貼られていた「コレステロール」は、食事からの摂取では、総量の2~3割を補うものでしかなく、体内コレステロールの7~8割は、自身の肝臓を使って合成しなければならないほど、とても重要なものでした。
体重1kgあたり1兆個ほどある、といわれる細胞の「細胞膜」の材料で、傷付いた血管や、臓器などを修復するためには、無くてはならない栄養であり、体内での機能調節の役目をする「性ホルモン」や「副腎皮質ホルモン」、食事中の脂肪分を消化する際に必要な「胆汁」の材料としても使われています。
そして、体内コレステロール総量の1/3は「脳」に存在しており、脳内の電気信号が正しく、素早く流れるための絶縁体としての役割など、神経伝達にも関与している、必要不可欠なものです。
もし、この大切な栄養である「コレステロール」が、脂質制限などで、食事から補われなくなれば、「コレステロール」を合成する肝臓の負担が増えてしまい、それが慢性化することで、合成が追い付かなくなり、体内総量が減ってしまえば、当然ですが、全身の細胞を包む「細胞膜」が弱くなってしまい、“臓器の修復”や“体内の機能調節”、“脳の神経伝達”など、「コレステロール」が関わる器官での、様々な不具合が懸念されてしまうのではないでしょうか。
変わりゆく「常識」と、変わらない「体のつくり」
このように、私たち人間の栄養学も、犬や猫の栄養学も、判明した“新たな事実”と共に、「常識」が日々変化しています。そして今後も“新たな事実”が、生まれてくるかもしれません。
“新たな事実”に直面したとき、それを信じられなかったり、受け入れるのに時間がかかったり、自身では判断がつかずに、誰かの考えにすがってしまうこともあるでしょう。
様々な情報の中から、正しいものを見極めるための“知識”を広げることも必要かと思いますが、ご自身の愛犬・愛猫との毎日のコミュニケーションの中で、言葉の話せない、小さな家族に、実際に起きている「変化」に気づいてあげる“目”を持つことも、とても大切です。
犬や猫は、人間と暮らすより遥か昔から、肉食動物として進化してきた生き物で、獲物からの栄養である、動物性の「タンパク質」と「脂質」を効率よく利用できるような“体のつくり”をしており、それは現在でも、ほとんど変わりありません。
人間の利便性や、間違った常識などにより、体の材料不足が生じ、それが原因で疾患が生まれているとすれば、「食事の見直し」によって解決できるものがあるのではないでしょうか。
本来、肉食動物である犬や猫の、体のつくりに合った“生食(なましょく)”を再現し、新鮮な動物性の「タンパク質」と「脂質」をしっかりと与えることができる、生食フリーズドライ・ペットフード「K9ナチュラル」。
皆様の愛犬・愛猫の『体の材料が補給できる食事』として、ぜひ、ご活用ください。